感情調節の困難
感情調節困難とは:誰にでも感情の浮き沈みがあります。誰にでも自分なりに感情を調節しています。しかし、誰にでも感情の調節が困難を感じることがあります。
ここでいう「感情調節の困難」とは【感情調節】を試みても(個人的工夫、薬物療法、心理療法など)なかなか改善しない、または増悪する為に、生活に支障が起きてしまうような状態を指します。
とても辛い感情に対処しようとして取る行動が、周囲のに人々に認めてもらえず、周囲の人々との関係にも悪影響となり、その悪循環のために複数の感情の調節が困難になってしまいます。
そして自分の感情の調節がうまくいかずに、家族や友人関係、学校や職場などでの生活に支障・困難をきたしてしまい、そこから出ることが出来ない苦しい状態と考えています。その結果ご本人や家族など周りの身近な人々の困難が増大します。
M.リネハン(弁証法的行動療法の創始者)は境界性パーソナリティ障害の機軸になる障害を【感情調節機能不全】と呼んでいます。
障害の特徴として、本人にとっての主観的「つらさ」とその影響や本人の対処するための行動(特に「衝動的」行動)が生活に支障をきたします。
爆発、暴言、暴力、器物破損、自傷、ED、飲酒、薬物、危険な行動などの行動化(「回避」することで生活上の不都合の増大)や、引きこもり、受動(攻撃サイクル)などは、周囲の人たち(周囲からの反応)に影響します。
境界性パーソナリティ障害等のパーソナリティ障害(自己愛性、反社会性、演技性、回避性など)、摂食障害、発達障害、物質依存、双極性障害(II型)などの精神科の診断名を受けている方々の中に、感情調節困難を体験している方が多くおられると思います。
しかし「感情調節困難」は診断名ではなく、そのような辛い状態を示す、一つの「呼称」だと考えています。そのような困難を経験している方の目線からでも有意義な呼称となることを意図しています。
(遊佐安一郎,熊野宏昭,坂野雄二,伊藤絵美,井上和臣,Jeffrey Young(著)「感情調節困難のための認知行 動療法の日本での可能性:境界性パーソナリティ障害に焦点をあてて」認知療法研究 第5巻 1号 2012年参照)